田髙論文(過去記事参照)と同じく、標記論文(林良平献呈論文集『現代における物権法と債権法の交錯』(有斐閣、1998年)357~394頁所収)は、金銭騙取や誤振込などの場合に、騙取者や不当利得者の無資力危険を返還権利者に負担させることが妥当かという問題提起をする。しかし、返還権利者の物権的保護の可能性を検討する田髙論文に対して、本論稿は、返還権利者の権利を債権と構成しても、一定の場合には優先的な弁済受領を認めることができないかという問題意識の下で、優先権付与の要件として必要とされる客体の特定性をアメリカ法の追及法理の下で検討している。仮想通貨の騙取や誤振込の場合の分析にも参考になる記述が多い。
規範的な追及可能性が技術的な追及可能性とは一致しないことを指摘した本ブログの過去記事との関係で、特に注目すべきと思われるのは、価値的な同一性として「特定性」が理解されていることである。本論稿によると、アメリカの判例・通説は、とりわけ金銭については、物体的な同一性は問題としておらず、日本の物権的価値返還請求権説が提示する特定性よりも、はるかに緩やかに特定性を認めているとのことである。
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